amenorsir’s blog

絵描き物書きベース弾き。

父の日に

夕方16時の平日。仕事は今日も終わらない。

Instagramを見ていると、同じ年頃の友人らは海外旅行をしたり好きなタイミングで有給を取って遊んだりしている。ように見える。だけかも。

大体はパートナーとお洒落なレストランに出掛けたとか、テレワーク中に食べたおやつとかそんなの。

わたしの職場は常に繁忙期だ。

仕事は大量なのに残業には厳しいから、短い時間で普通の倍の仕事をこなしていかねばならない。

日の落ちかけた休憩室、わたしはひとり、持参した白米と冷凍しゅうまいとポテトサラダをいそいそと胃に運んでいる。

16時に捩じ込むようにランチ、しかも15分とか20分。これ以外はトイレにもまともに立たずにひたすらPCの前で唸っている毎日である。

電気はつけない主義。偶然に人が入ってくると、いつも笑われ、病んでいるのかと心配される。だって蛍光灯の刺すような明るさに疲れるのだ。でもTVだけ点ける、一人なのだし好きなチャンネルを独占できる。まあ、無難な大衆向けニュース番組だけれど。

突如、ふと頭に一つの情景が浮かんだ。

それは秋の夕暮れの地元のスーパーマーケット。

父は週末になると私達幼い娘らを夕飯の買いだしに連行する。

そして買い物のあと、店の前の小さなテントばりの焼き鳥屋に寄らせてくれる。 

トラックのお兄ちゃんからひとり何本かずつ好きなのを買ってくれ、設えの安っぽいテーブルとベンチでそれを皆んなで食べたのだ。

育ち盛りの私達はいつも腹を空かせていたから、あの焼き鳥が一層、とてつもなく美味しかった。

何故にあの光景を今突然思い出したのかは謎だ。

そう言えば昨日は父の日だった。

ああ父の日だなぁと思いながら実家に帰れず、何も渡せずに終わってしまったことが頭の片隅に引っかかっていたからだろうか。

 

ある日、昼食を取っていると会社の偉い人が部屋に入ってくるなりわたしに話しかけた。

「〇〇さんはなぜお父さんと同じ業界へ?」

「ここに決まったとき何て言われたの?止められなかったの?」

「僕なら娘がいるんだけど反対するけどな。」

働き方改革もまだ無い時代、早朝5時から深夜2時まで働く父を見て育ったから、勿論同じ道を歩むことにかなり抵抗があった。

結論は希望の業界には尽く落ちたから、であるが、就活の時にあまりアドバイスをよこさず、傷つく事も言い、最終的に止めてもくれなかった父を恨むような気持ちになったこともある。

とはいえ。

入ってはいけない他の家庭の領域に図々しく踏み込んでくるこの会社の「偉い人」に、あのときは寒気を覚えたのだった。

さて、社会に食い込んで働くことは本当に骨が折れる。でも段々と面白がれるようにはなってきた。意味を見出すということが、「社会人」として一人前になるということなのかもしれぬ。

きっと父もクタクタの身体で、私達を近所のスーパーマーケットに連れてゆき、焼き鳥を食べさせてくれたり、好きなのが出るまでガチャガチャをさせてくれたりしたのだ。あの日の父を思い出すと、じわっと心が温まった。

ちょうどタイミング良くニュース番組のエンドロールが流れ始めたので、わたしはリモコンの電源を切ると席を立った。